--- title: コントローラー content_type: concept weight: 30 --- ロボット工学やオートメーションの分野において、 _制御ループ_ とは、あるシステムの状態を制御する終了状態のないループのことです。 ここでは、制御ループの一例として、部屋の中にあるサーモスタットを挙げます。 あなたが温度を設定すると、それはサーモスタットに *目的の状態(desired state)* を伝えることになります。実際の部屋の温度は *現在の状態* です。サーモスタットは、装置をオンまたはオフにすることによって、現在の状態を目的の状態に近づけるように動作します。 {{< glossary_definition term_id="controller" length="short">}} ## コントローラーパターン コントローラーは少なくとも1種類のKubernetesのリソースを監視します。これらの[オブジェクト](/ja/docs/concepts/overview/working-with-objects/kubernetes-objects/#kubernetes-objects)には目的の状態を表すspecフィールドがあります。リソースのコントローラーは、現在の状態を目的の状態に近づける責務を持ちます。 コントローラーは自分自身でアクションを実行する場合もありますが、Kubernetesではコントローラーが{{< glossary_tooltip text="APIサーバー" term_id="kube-apiserver" >}}に意味のある副作用を持つメッセージを送信することが一般的です。以下では、このような例を見ていきます。 {{< comment >}} ネームスペースコントローラーなどの一部のビルトインのコントローラーは、specのないオブジェクトに対して作用します。簡単のため、このページではそのような詳細な説明は省略します。 {{< /comment >}} ### APIサーバー経由でコントロールする {{< glossary_tooltip term_id="job" >}}コントローラーはKubernetesのビルトインのコントローラーの一例です。ビルトインのコントローラーは、クラスターのAPIサーバーとやりとりをして状態を管理します。 Jobは、1つ以上の{{< glossary_tooltip term_id="pod" >}}を起動して、タスクを実行した後に停止する、Kubernetesのリソースです。 (1度[スケジュール](/ja/docs/concepts/scheduling-eviction/)されると、Podオブジェクトはkubeletに対する目的の状態の一部になります。) Jobコントローラーが新しいタスクを見つけると、その処理が完了するように、クラスター上のどこかで、一連のNode上のkubeletが正しい数のPodを実行することを保証します。ただし、Jobコントローラーは、自分自身でPodやコンテナを実行することはありません。代わりに、APIサーバーに対してPodの作成や削除を依頼します。{{< glossary_tooltip text="コントロールプレーン" term_id="control-plane" >}}上の他のコンポーネントが(スケジュールして実行するべき新しいPodが存在するという)新しい情報を基に動作することによって、最終的に目的の処理が完了します。 新しいJobが作成されたとき、目的の状態は、そのJobが完了することです。JobコントローラーはそのJobに対する現在の状態を目的の状態に近づけるようにします。つまり、そのJobが行ってほしい処理を実行するPodを作成し、Jobが完了に近づくようにします。 コントローラーは、コントローラーを設定するオブジェクトも更新します。たとえば、あるJobが完了した場合、Jobコントローラーは、Jobオブジェクトに`Finished`というマークを付けます。 (これは、部屋が設定温度になったことを示すために、サーモスタットがランプを消灯するのに少し似ています。) ### 直接的なコントロール Jobとは対照的に、クラスターの外部に変更を加える必要があるコントローラーもあります。 たとえば、クラスターに十分な数の{{< glossary_tooltip text="Node" term_id="node" >}}が存在することを保証する制御ループの場合、そのコントローラーは、必要に応じて新しいNodeをセットアップするために、現在のクラスターの外部とやりとりをする必要があります。 外部の状態とやりとりをするコントローラーは、目的の状態をAPIサーバーから取得した後、外部のシステムと直接通信し、現在の状態を目的の状態に近づけます。 (クラスター内のノードを水平にスケールさせる[コントローラー](https://github.com/kubernetes/autoscaler/)が実際に存在します。) ここで重要な点は、コントローラーが目的の状態を実現するために変更を加えてから、現在の状態をクラスターのAPIサーバーに報告することです。他の制御ループは、その報告されたデータを監視し、独自のアクションを実行できます。 サーモスタットの例では、部屋が非常に寒い場合、別のコントローラーが霜防止ヒーターをオンにすることもあります。Kubernetesクラスターを使用すると、コントロールプレーンは、[Kubernetesを拡張して](/ja/docs/concepts/extend-kubernetes/)実装することにより、IPアドレス管理ツールやストレージサービス、クラウドプロバイダーAPI、およびその他のサービスと間接的に連携します。 ## 目的の状態 vs 現在の状態 {#desired-vs-current} Kubernetesはシステムに対してクラウドネイティブな見方をするため、常に変化し続けるような状態を扱えるように設計されています。 処理を実行したり、制御ループが故障を自動的に修正したりしているどの時点でも、クラスターは変化中である可能性があります。つまり、クラスターは決して安定した状態にならない可能性があるということです。 コントローラーがクラスターのために実行されていて、有用な変更が行われるのであれば、全体的な状態が安定しているかどうかは問題にはなりません。 ## 設計 設計理念として、Kubernetesは多数のコントローラーを使用しており、各コントローラーはクラスターの状態の特定の側面をそれぞれ管理しています。最もよくあるパターンは、特定の制御ループ(コントローラー)が目的の状態として1種類のリソースを使用し、目的の状態を実現することを管理するために別の種類のリソースを用意するというものです。たとえば、Jobのコントローラーは、Jobオブジェクト(新しい処理を見つけるため)およびPodオブジェクト(Jobを実行し、処理が完了したか確認するため)を監視します。この場合、なにか別のものがJobを作成し、JobコントローラーはPodを作成します。 相互にリンクされた単一のモノリシックな制御ループよりは、複数の単純なコントローラーが存在する方が役に立ちます。コントローラーは故障することがあるため、Kubernetesは故障を許容するように設計されています。 {{< note >}} 同じ種類のオブジェクトを作成または更新するコントローラーが、複数存在する場合があります。実際には、Kubernetesコントローラーは、自分が制御するリソースに関連するリソースにのみ注意を払うように作られています。 たとえば、DeploymentとJobがありますが、これらは両方ともPodを作成するものです。しかし、JobコントローラーはDeploymentが作成したPodを削除することはありません。各コントローラーが2つのPodを区別できる情報({{< glossary_tooltip term_id="label" text="ラベル" >}})が存在するためです。 {{< /note >}} ## コントローラーを実行する方法 {#running-controllers} Kubernetesには、{{< glossary_tooltip term_id="kube-controller-manager" >}}内部で動作する一組のビルトインのコントローラーが用意されています。これらビルトインのコントローラーは、コアとなる重要な振る舞いを提供します。 DeploymentコントローラーとJobコントローラーは、Kubernetes自体の一部として同梱されているコントローラーの例です(それゆえ「ビルトイン」のコントローラーと呼ばれます)。Kubernetesは回復性のあるコントロールプレーンを実行できるようにしているため、ビルトインのコントローラーの一部が故障しても、コントロールプレーンの別の部分が作業を引き継いでくれます。 Kubernetesを拡張するためにコントロールプレーンの外で動作するコントローラーもあります。もし望むなら、新しいコントローラーを自分で書くこともできます。自作のコントローラーをPodセットとして動作させたり、Kubernetesの外部で動作させることもできます。どのような動作方法が最も適しているかは、そのコントローラーがどのようなことを行うのかに依存します。 ## {{% heading "whatsnext" %}} * [Kubernetesコントロールプレーン](/ja/docs/concepts/#kubernetes-control-plane)について読む * 基本的な[Kubernetesオブジェクト](/ja/docs/concepts/#kubernetes-objects)について学ぶ * [Kubernetes API](/ja/docs/concepts/overview/kubernetes-api/)について学ぶ * 自分でコントローラーを書きたい場合は、「Kubernetesを拡張する」の[エクステンションパターン](/ja/docs/concepts/extend-kubernetes/extend-cluster/#extension-patterns)を読んでください。