--- title: EndpointSlice content_type: concept weight: 35 --- {{< feature-state for_k8s_version="v1.17" state="beta" >}} *EndpointSlice*は、Kubernetesクラスター内にあるネットワークエンドポイントを追跡するための単純な手段を提供します。EndpointSliceは、よりスケーラブルでより拡張可能な、Endpointの代わりとなるものです。 ## 動機 Endpoint APIはKubernetes内のネットワークエンドポイントを追跡する単純で直観的な手段を提供してきました。 残念ながら、Kubernetesクラスターや{{< glossary_tooltip text="Service" term_id="service" >}}が大規模になり、より多くのトラフィックを処理し、より多くのバックエンドPodに送信するようになるにしたがって、Endpoint APIの限界が明らかになってきました。 最も顕著な問題の1つに、ネットワークエンドポイントの数が大きくなったときのスケーリングの問題があります。 Serviceのすべてのネットワークエンドポイントが単一のEndpointリソースに格納されていたため、リソースのサイズが非常に大きくなる場合がありました。これがKubernetesのコンポーネント(特に、マスターコントロールプレーン)の性能に悪影響を与え、結果として、Endpointに変更があるたびに、大量のネットワークトラフィックと処理が発生するようになってしまいました。EndpointSliceは、この問題を緩和するとともに、トポロジカルルーティングなどの追加機能のための拡張可能なプラットフォームを提供します。 ## EndpointSliceリソース {#endpointslice-resource} Kubernetes内ではEndpointSliceにはネットワークエンドポイントの集合へのリファレンスが含まれます。 コントロールプレーンは、{{< glossary_tooltip text = "セレクター" term_id = "selector" >}}が指定されているKubernetes ServiceのEndpointSliceを自動的に作成します。 これらのEndpointSliceには、Serviceセレクターに一致するすべてのPodへのリファレンスが含まれています。 EndpointSliceは、プロトコル、ポート番号、およびサービス名の一意の組み合わせによってネットワークエンドポイントをグループ化します。 EndpointSliceオブジェクトの名前は有効な[DNSサブドメイン名](/ja/docs/concepts/overview/working-with-objects/names#dns-subdomain-names)である必要があります。 一例として、以下に`example`というKubernetes Serviceに対するサンプルのEndpointSliceリソースを示します。 ```yaml apiVersion: discovery.k8s.io/v1beta1 kind: EndpointSlice metadata: name: example-abc labels: kubernetes.io/service-name: example addressType: IPv4 ports: - name: http protocol: TCP port: 80 endpoints: - addresses: - "10.1.2.3" conditions: ready: true hostname: pod-1 topology: kubernetes.io/hostname: node-1 topology.kubernetes.io/zone: us-west2-a ``` デフォルトでは、コントロールプレーンはEndpointSliceを作成・管理し、それぞれのエンドポイント数が100以下になるようにします。`--max-endpoints-per-slice`{{< glossary_tooltip text="kube-controller-manager" term_id="kube-controller-manager" >}}フラグを設定することで、最大1000個まで設定可能です。 EndpointSliceは内部トラフィックのルーティング方法に関して、{{< glossary_tooltip term_id="kube-proxy" text="kube-proxy" >}}に対する唯一のソース(source of truth)として振る舞うことができます。EndpointSliceを有効にすれば、非常に多数のエンドポイントを持つServiceに対して性能向上が得られるはずです。 ### アドレスの種類 EndpointSliceは次の3種類のアドレスをサポートします。 * IPv4 * IPv6 * FQDN (Fully Qualified Domain Name、完全修飾ドメイン名) ### トポロジー {#topology} EndpointSliceに属する各エンドポイントは、関連するトポロジーの情報を持つことができます。この情報は、エンドポイントの場所を示すために使われ、対応するNode、ゾーン、リージョンに関する情報が含まれます。 値が利用できる場合には、コントロールプレーンはEndpointSliceコントローラーに次のようなTopologyラベルを設定します。 * `kubernetes.io/hostname` - このエンドポイントが存在するNodeの名前。 * `topology.kubernetes.io/zone` - このエンドポイントが存在するゾーン。 * `topology.kubernetes.io/region` - このエンドポイントが存在するリージョン。 これらのラベルの値はスライス内の各エンドポイントと関連するリソースから継承したものです。hostnameラベルは対応するPod上のNodeNameフィールドの値を表します。zoneとregionラベルは対応するNode上の同じ名前のラベルの値を表します。 ### 管理 ほとんどの場合、コントロールプレーン(具体的には、EndpointSlice {{< glossary_tooltip text = "コントローラー" term_id = "controller" >}})は、EndpointSliceオブジェクトを作成および管理します。EndpointSliceには、サービスメッシュの実装など、他のさまざまなユースケースがあり、他のエンティティまたはコントローラーがEndpointSliceの追加セットを管理する可能性があります。 複数のエンティティが互いに干渉することなくEndpointSliceを管理できるようにするために、KubernetesはEndpointSliceを管理するエンティティを示す`endpointslice.kubernetes.io/managed-by`という{{< glossary_tooltip term_id="label" text="ラベル" >}}を定義します。 EndpointSliceを管理するその他のエンティティも同様に、このラベルにユニークな値を設定する必要があります。 ### 所有権 ほとんどのユースケースでは、EndpointSliceはエンドポイントスライスオブジェクトがエンドポイントを追跡するServiceによって所有されます。 これは、各EndpointSlice上のownerリファレンスと`kubernetes.io/service-name`ラベルによって示されます。これにより、Serviceに属するすべてのEndpointSliceを簡単に検索できるようになっています。 ### EndpointSliceのミラーリング 場合によっては、アプリケーションはカスタムEndpointリソースを作成します。これらのアプリケーションがEndpointリソースとEndpointSliceリソースの両方に同時に書き込む必要がないようにするために、クラスターのコントロールプレーンは、ほとんどのEndpointリソースを対応するEndpointSliceにミラーリングします。 コントロールプレーンは、次の場合を除いて、Endpointリソースをミラーリングします。 * Endpointリソースの`endpointslice.kubernetes.io/skip-mirror`ラベルが`true`に設定されています。 * Endpointリソースが`control-plane.alpha.kubernetes.io/leader`アノテーションを持っています。 * 対応するServiceリソースが存在しません。 * 対応するServiceリソースには、nil以外のセレクターがあります。 個々のEndpointリソースは、複数のEndpointSliceに変換される場合があります。これは、Endpointリソースに複数のサブセットがある場合、または複数のIPファミリ(IPv4およびIPv6)を持つエンドポイントが含まれている場合に発生します。サブセットごとに最大1000個のアドレスがEndpointSliceにミラーリングされます。 ### EndpointSliceの分散 それぞれのEndpointSliceにはポートの集合があり、リソース内のすべてのエンドポイントに適用されます。サービスが名前付きポートを使用した場合、Podが同じ名前のポートに対して、結果的に異なるターゲットポート番号が使用されて、異なるEndpointSliceが必要になる場合があります。これはサービスの部分集合がEndpointにグループ化される場合と同様です。 コントロールプレーンはEndpointSliceをできる限り充填しようとしますが、積極的にリバランスを行うことはありません。コントローラーのロジックは極めて単純で、以下のようになっています。 1. 既存のEndpointSliceをイテレートし、もう必要のないエンドポイントを削除し、変更があったエンドポイントを更新する。 2. 前のステップで変更されたEndpointSliceをイテレートし、追加する必要がある新しいエンドポイントで充填する。 3. まだ追加するべき新しいエンドポイントが残っていた場合、これまで変更されなかったスライスに追加を試み、その後、新しいスライスを作成する。 ここで重要なのは、3番目のステップでEndpointSliceを完全に分散させることよりも、EndpointSliceの更新を制限することを優先していることです。たとえば、もし新しい追加するべきエンドポイントが10個あり、2つのEndpointSliceにそれぞれ5個の空きがあった場合、このアプローチでは2つの既存のEndpointSliceを充填する代わりに、新しいEndpointSliceが作られます。言い換えれば、1つのEndpointSliceを作成する方が複数のEndpointSliceを更新するよりも好ましいということです。 各Node上で実行されているkube-proxyはEndpointSliceを監視しており、EndpointSliceに加えられた変更はクラスター内のすべてのNodeに送信されるため、比較的コストの高い処理になります。先ほどのアプローチは、たとえ複数のEndpointSliceが充填されない結果となるとしても、すべてのNodeへ送信しなければならない変更の数を抑制することを目的としています。 現実的には、こうしたあまり理想的ではない分散が発生することは稀です。EndpointSliceコントローラーによって処理されるほとんどの変更は、既存のEndpointSliceに収まるほど十分小さくなるためです。そうでなかったとしても、すぐに新しいEndpointSliceが必要になる可能性が高いです。また、Deploymentのローリングアップデートが行われれば、自然な再充填が行われます。Podとそれに対応するエンドポイントがすべて置換されるためです。 ### エンドポイントの重複 EndpointSliceの変更の性質上、エンドポイントは同時に複数のEndpointSliceで表される場合があります。 これは、さまざまなEndpointSliceオブジェクトへの変更が、さまざまな時間にKubernetesクライアントのウォッチ/キャッシュに到達する可能性があるために自然に発生します。 EndpointSliceを使用する実装では、エンドポイントを複数のスライスに表示できる必要があります。 エンドポイント重複排除を実行する方法のリファレンス実装は、`kube-proxy`の`EndpointSliceCache`実装にあります。 ## {{% heading "whatsnext" %}} * [EndpointSliceの有効化](/docs/tasks/administer-cluster/enabling-endpointslices)について学ぶ * [サービスとアプリケーションの接続](/ja/docs/concepts/services-networking/connect-applications-service/)を読む